指先にキスを 8

 

 

こいつ目がヤバイ、と思った時には体を裏返されていた。
「何しやがる!」
サンジがゾロの方へ向こうとするが、力任せに押えられ殆ど首を動かせない。
ゾロは無言でサンジの腕を高く上げさせると、近くにあったネクタイを取りベッドの支柱へと手首ごと括りつけた。
「いったい、どういうつもりだ。女抱く気になったんじゃなかったのかよ!」
サンジは戒めを解こうと蜿きながら、厳しい口調で叫ぶ。
部屋にゾロが入ってきた時に不審には思ったが、まさか自分を襲うなど…少し待てば女が来るというのに。サンジにしてみれば不条理極まりない話だった。
ゾロが自分を抱きたいと言うのはただ体を持て余し、それを満たしてくれる人間を求めているだけだと考えてたのだ。だから適当な商売女でも抱けばこれで事態は片付くだろうと気を緩めていたし、女を迎える為多少漫ろ心にもなっていた。
ゾロが突いたのは、まさにそこである。
サンジは唾を飲んで、
「とにかく、ちょっと落ち着け。もうすぐレディも来るんだし───」
「来ねェよ。来させないようにした」
ゾロは低い、低い声で言う。
「ンだと…?」
サンジが目を見開いた。「正気じゃねェぞ、てめェ」
「確かにな」
ゾロはサンジの首筋に唇を寄せる。
ざわつく感覚がサンジの背中を通り抜け、肌が粟立った。
「やめろ!俺は野郎なんかに掘られんのは、ゴメンだって言ったろうが」
「俺だって男を犯るような趣味はねえよ」
サンジの体とベッドの間にゾロは手を差込み、シャツを後ろからきつく引っ張る。ボタンが飛ぶ。「けど、しょうがないだろ…抱きてェもんは」
「───で、俺の気持ちは無視かよ」
冷たい声に、一瞬ゾロが手を休めた。「ヤりてェからヤるなんてのは、まるっきり動物じゃねェか。鬼畜にも程があるぜ」
「…分かってんだよ。いちいち言われなくてもな」
けどもう止まらねえんだと呟き、ゾロはサンジの頭を鷲掴みにすると乱暴に唇を奪った。
空いているほうの手が指が、何かを探すかのように肌をまさぐってくる。
荒い息がサンジの耳許にかかった。腰の辺りに、ゾロの熱く固くなっているものを変にリアルに感じる。自分の体に欲情しているのだという、証を。
(冗談じゃねェぞ)
流石に焦るが、反撃の隙を見つけられない。力ではどうしたって敵わないのだ。頼みの足も、無理な体勢で押さえ込まれているので殆ど動かせない。ゾロはどこまでも本気でサンジを犯そうとしていた。
「殺されたくなかったら、そろそろやめとけ…!」
やっと口を開放されサンジが威嚇すると、ゾロは目を細めた。
「言ったろ」
サンジのシャツをたくし上げ、肩甲骨を軽く噛む。「止まらねェんだよ」
「クソ野郎がっ…」
罵り声は剣士の耳に届いているのかどうか。不意に胸の尖りを引っ掻かれて、サンジはピクッと肩を震わせた。
ゾロがもどかしそうにカチャカチャとバックルを外し、サンジのズボンと下着を剥ぎ取る。サンジはひんやりしたシーツに思わず身を竦めた。引き締まった双丘の割れ目にゾロはつと指を這わせる。
太い指が蕾に入ろうとするが、その場所は侵入者を拒むように閉ざされていた。
ぴちゃ、と音がする。
舌のぬめっとした感触を自分でも殆ど未知の場所に覚え、サンジは逃れようと身を捩らせた。
「止せっ…う…」
ざらついた舌で押し広げられ指が入ってくる異物感が絶え間なくサンジを襲い、絡むような水音がサンジの聴覚をも侵した。
指は秘所を柔軟にほぐすように本数が増やされる。
「───も、我慢できねェ」
上擦ったような声をゾロが洩らし、猛った自身を取り出そうとしていた。
そのぶん手の動きが僅かに散漫になり、サンジは深く息を吸い込む。
(この俺に容易くブチ込めるなんて思うなよ)
怒りがサンジの中で燃えていた。
こんな屈辱に甘んじられる男では、到底ない。
ゾロがやや体を浮かした瞬間、サンジは腰を捻らせて剣士の腹を蹴りつける。手首が擦れて痛んだが、勢いも手伝って体は仰向けにすることが出来た。
それは明らかに不意打ちだったのだろう。みっともないほどの格好で、ゾロがベッドから転がり落ちる。 だがその反撃も、ゾロの情欲を削ぎはしなかった。むしろ逆効果だったかもしれない。
「そんなに、嫌か」
翳った響きを持つゾロの言い方に、サンジは間髪入れず答える。
「分かりきったこと聞くんじゃねェ。さっさとコレ、解きやがれ」
雁字搦めにされたコックの両手首を、ゾロはちらりと見た。そして───雪走を持つとサンジの体にのしかかる。「何だおい、ネクタイ斬る気かよ…」
「斬るもんか」
言うや否や、刃をサンジの手元へと滑らせた。
「!」
血が迸る。
「てめェ…!」
「こうでもしないと、大人しくしねえだろ?」
刀を床に投げ捨てるとゾロはサンジの体に覆い被さった。
コックの足を肩に担ぎ上げ、大した猶予もなくゾロは熱い塊を強引にサンジへと捻じ込む。
「ア、ゥアアッ!」
手の傷など生易しいほどの苦痛と圧迫感にサンジが声を上げた。
と、ゾロがサンジの雄の部分に触れ、ゆっくりと扱き出す。
親指で先端を弄られ、サンジは呻きを噛み殺した。
そんなつもりではなかったにしても、一度は以前にそういう触れ合いをしてしまっているのだ。ゾロはサンジが反応する部分を覚えているのか、的を外さなかった。
穿たれた苦しさと共にじわじわと下肢の中心が熱くなっていく。
(卑怯だろ…こんなのは)
快楽が手伝ってやや力が抜けたところを狙ったように、ゾロが腰を動かして奥を突いた。
「あっ───」
埋め込まれたゾロ自身が内壁をこすり、サンジが弓なりに体を反らせ。
心得たかのようにゾロが連続して突き上げてくる。
あられもない喘ぎが出るのを抑えられなかった。
ドクドクと脈打つのは、傷を負った手なのか自分の性器なのか繋がってる部分なのかもう分からない。
どうにかなりそうな快感と苦痛とが綯い交ぜになっていた。
体はただ、その感覚を追うだけで精一杯になっていた。
高まってきているのはゾロも同様らしく、動きに余裕が失われつつある。それでも執拗に前後を攻めるのは止めず、サンジはついに声にならない嬌声をあげ絶頂に達して白濁を放った。

刹那、きつく抱きしめられる。

そして唇を塞がれ舌を吸われ、内部にゾロの熱い液体が吐き出されるのを感じた。
ゾロがサンジの中から自身を抜くと、汗ばんだ身をそっと起こす。
「…気が、済んだかよ」
だるそうなサンジの声に、ゾロは眉を上げた。
「思い通りに俺に突っ込んで、満足したかって聞いてんだよ!」
非難めいた調子になるのは無理もなかった。
だが、ぼやけたような視界に入ってくる剣士の顔にサンジは疑問を禁じえない。
何故。
これ以上ないくらい手酷く扱っておきながら、体も心も傷つけ貶めておきながら。
まるで被害者みたいな、辛そうな表情をするのか。
そんな権利などあるわけがないのに。
なのに…。
ゾロはサンジと目を合わさず、手首を拘束していたネクタイを解いた。自由になった腕を見て、斬られたのは左手だったのだとサンジは初めて気がつく。そんなに深い傷ではないが、縛られて鬱血していたのか新たに血が流れ出した。
ゾロが腕の黒いバンダナを外してサンジの手に巻く。
巻き終わった後もゾロはサンジの手を取ったまま、そこを凝視していた。
「…何か言う事はねェのかよ。詫びとか、謝罪とか、弁解とかよ」
サンジの静かな詰問に、ゾロがぼそりと言う。
「───謝ったからって、収まる問題じゃねェだろ」
当たり前だ。
そう怒鳴ってやりたかった。勿論それだけでは飽き足らない。
あらん限りの表現でなじって、蹴倒してやりたい。
しかし、ふてぶてしくも聞こえる言葉とは裏腹に、ゾロは打ち拉がれていた。悔恨が明らかに表れた表情は、そんな訳はないのにこっちが虐げているような気にさせられる。
「…だからって開き直んのかよ?それで俺が泣き寝入りするとでも思ってんのか」
「思ってねェよ。お前が俺を許す必要なんか、どこにもねえ」
ゾロは顔を歪めるようにしてそう言うと、サンジから手を離して部屋を出て行った。
追いかけたくとも、下半身の激痛でサンジは起き上がることにさえ苦労する。
「クソッ」
何とか足を踏ん張って立つとゾロの名残が太腿を伝った。

剣士を許容する気などない。
どんな理由があろうとも、合意もなく姦通されたのは事実だ。
あまつさえ、コックの命とも言える手を浅くとはいえ傷つけた。
許される話ではないだろう。
───当のゾロでさえ、そう言っていたように。
サンジはバスルームに行き、シャワーを持とうとしてバンダナを巻かれた手をふと見た。
剣士の、捨てられた犬のような俯いた顔を思い出す。

そう、ゾロは。
如何に酷い行為をしているか自分でも分かっていたのだ。分かっていたのに、サンジを抱かずにいられなかった。

(あいつ…とんでもねェ馬鹿だ)

サンジはシャワーからの奔流に身を投じる。
叶うなら、何もかもを洗い流してしまいたかった。



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