指先にキスを 5

 

 


「あっ、んあ、アッ…」
サンジがたまらない、という声を上げる。
「早くっ…くれよ…」
ゾロは昂ぶっている雄をサンジの中へと突き立てる。粘膜がゾロ自身を包む。柔らかくも強烈な快感に脳髄まで溶けてしまいそうで。
「はんっ!い、い…もっと…」
サンジがあられもない姿で身を捩り、腰を振り、よがった。それに応じて、激しく奥を貪るゾロ。ゾロの肉厚な肩に縋りつくサンジ。
「ゾロッ…も、イク…」
「ああ、俺も…」
サンジの細い体躯を支えてゾロは最後まで律動的に腰を打ちつけ。
───そこで、目が覚めた。
鴎が飛ぶ青空。さわさわと寄りかかっていたみかんの木の葉が鳴る。
(洒落になんねェぞオイ…)
ゾロは深々と息をついた。
かなりその部分に血が集まっているのを感じる。
甲板で大の字になって寝ていなかったのが幸いと言うべきか。
昼食の後、みかんの木の陰で刀を手入れしていたのだが、いつのまにか眠ってしまった。昨夜は、結局酒を飲んでもあまり眠れなかったせいだろう。しかし何て夢を見てるんだと、己を叱責したくなる。何の間違いか、昨夜サンジに欲情してしまったのは確かだが…。
自分は、そんな事をコックにしたいと思っているのだろうか?
あの体を、抱いてみたいと。
あんなふうに自分の名前を呼ばせ、鳴かせてみたいとでも。
(冗談じゃねえ)
あんなガラの悪い口汚いクソコックを。体こそゾロより細いが、あれでいて結構ガタイはしっかりしている。戦闘能力だってハンパじゃなく高い。正直、素手では確実に勝てるとは言い切れなかった。
そんな男を、女の代用品になど…馬鹿馬鹿しい。
いくら最近その手の事にご無沙汰だからと言っても、そこまで切羽詰ってはいなかった筈だ。
(だいたいあのアホコックがあんな事言い出すから、余計に話がおかしくなるんだ)
半分はサンジにも責任があると思うゾロである。
だが、自分も何故受けてしまったのだろう。
あんなふざけた申し出はキッパリと断ってやろうと思っていたのに、口から出たのは肯定だった。
また昨夜のような顔を見たいからか。
お互い擦り合ったりして、それだけで済むのか。
今見た夢のような事をしないと言い切れるのか。
分からない。
コックと再び向き合ってみなければ…。
体の熱っぽさが静まるのを待ちゾロがキッチンに行くと、サンジは忙しそうに鍋をかき回していた。
おやつ作りの途中なのだろう、甘ったるい匂いがする。
「出来たら呼んでやるから、ちょっと待ってろ」
言いながら振り向いたサンジは目を見開く。
「何だ、ルフィかと思ったぜ。てめェが今頃来るなんて珍しいじゃねェか」
普段と全くと言っていいほど変わりない態度だ。小さな鍋からとろりとしたクリームを生地を伸ばしてある器に注いで、オーブンに放り込んだ。
そして一段落したのか煙草に火を点けたサンジの前に、ゾロは立つ。
「アレ、本気なのか」
「あァ?」
不審そうに剣士の顔を睨む。
その顔に。
冗談、だったのだろうかとゾロは思った。タチの悪い、コック流のジョーク。
だとしたら?
本気にしてアレコレ考え、あんな夢まで見てしまった自分は…。
「お互いの始末するって言ったろうが」
妙に焦ったような気持ちになり、サンジの手首を思わず掴んだ。無意識の行動であって、別にそこへ導こうとか触れさせようとか思ったわけではない。
が。サンジはゾロの顔と、その下肢とを交互に見やり。
「…エロ剣士」
「何言ってやがる」
「こっちが聞きたいね。こんな明るいうちから何言ってんだかよ」
「俺はただ、昨日の確認をしたかっただけだ」
「ああ。そりゃ、そんな話もしたさ。けどなあてめェ、節度ってモノを知りやがれ。そんな話昼間にすんじゃねェよ。誰が聞いてるか分からないんだぞ」
諭すかようなサンジの声も小さいとは言い難いが。「つーかよ…そんな確認したかったってことは、もう溜まってんのか?一昨日抜いたばっかなのによ」
「別に───」
ゾロは口篭もった。溜まってるとか溜まってないとかは、今のゾロにとっては問題ではないのだ。
昨夜のコックへの欲情が錯覚であるかどうか、もし錯覚でなかったらどうするのかというモヤモヤした感情を持て余している。だがそんな事は口が裂けても言えない。
黙ってしまった剣士の態度をサンジはどう受け取ったのか、やや哀れむような顔になる。
「分かった。言い出したのは俺だしなァ、仕方ねェから今晩付き合ってやるよ」
ゾロとしては喜ぶべきなのかどうか複雑極まりなかったからすぐに頷くこともできず。と、ルフィがいい加減待ちくたびれたというようにキッチンに入ってきた。
「サンジッ。スッゲーいい匂い、外にもしてるぞ。もうできたか〜?」
「ん、ああ。ちょっと待て。後3分」
煙草を灰皿に押しつけサンジがオーブンの中を覗きつつ言うと、ルフィも一緒になって覗き込む。
「もう、いいじゃん。焼けてるぞ」
「駄目だ」
料理に関して、サンジは絶対に譲らない。それは分かっているのだが、分かっていつつも我慢がきかないのもルフィで、子供のように手足をジタバタさせる。
「腹減った腹減った。死んじまう」
「あー、死んじまったら、俺の美味い料理がもう食えなくなるなァ。いいのか?」
パタッとルフィの動きが止まった。
「それは嫌だ」
くっくっとサンジが笑う。
「じゃあ、少しは待てよ。ほら、もう後2分だ」
付き合いも長くなってくると、あやし方も覚えるというものだ。もちろん、完全に行動を把握できるほど船長も簡単ではないが…。
「待てねェよ。サンジの作るおやつ、早く食いてえもん」
頬をぷうっと膨らませるルフィ。
「じゃあ、この残ったヤツでも食ってろ」
サンジが渡した小鍋に入っていたカスタードクリームを、ルフィはあっという間に舐めつくしてしまった。時間稼ぎにもならねェな、とサンジが苦笑する。
「あ、ここにもついてる」
ルフィがさっと手を伸ばし、サンジの頭を押さえつけたかと思うと自分の方に引き寄せてその唇を舐めた。というか食いついたようにゾロには見えた。
「んんっ」
くぐもった声を出しサンジが暴れる。ゾロはつかつかと歩いていって、ルフィの首根っこを持つと力任せに引き剥がした。
「あれっ。何だゾロ、いたのか?」
「さっきからな」
初めて剣士の存在に気がついたように言うルフィに答える。船長は実際おやつとサンジしか目に入ってなかったのだろう。
「ったく、何しやがるんだか…」
サンジが唇を拭い、乱れた髪を手で直した。
「だって、クリームが口の周りについてたぞ。ちょっと苦かったけど」
「たりめーだ、煙草吸ってたんだから。お前なあ、今みたいな事ナミさんにしやがったらオロスぞ」
「何でだ?」
きょとんとしているルフィにサンジは大袈裟に嘆息する。
「ああいうのは好き合ってる奴らしかやっちゃいけねェの」
「俺はサンジ好きだぞ?サンジは俺のこと嫌いなのか」
「そういうんじゃなくてだなァ」
オーブンの扉を開け、ミトンみたいな鍋つかみで陶器の器を取り出してごとんとテーブルに置く。 「おいクソ剣士、てめェも何とか言ってやってくれ───って、朴念仁野郎に言っても無理か」
ゾロは肩をすくめて呟いた。
「…少なくとも野郎同士でやることじゃねェだろ」
「そうそう、そうだ。てめェもたまには役に立つな」
我が意を得たりというように頷くサンジだが、ルフィは首を傾げていた…。 

野郎同士ですることじゃない。
その通りだ。言った台詞に納得している自分がいる。
なのに、さっきの感覚は、何だ?

時間は長かった。早く夜になってほしいようなほしくないような相反する気持ちで、ゾロは食事以外は鍛錬に没頭した。
当然のことながら時はただ刻一刻と進み、月が雲に隠れているような暗い夜がやってくる。
見張り台のウソップがうとうとしているのをちょっと見やって、ゾロはキッチンに入った。
サンジが冷やかすような笑みを浮かべている。
「もう来たのか。やる気マンマンだな、てめェ」
「うるせえ」
「おーお、えっらそう。扱いてもらう立場の癖に」
皮肉っぽく言いサンジがゾロの股間に触ると、ゾロはその手首を持ち上げコックの体ごとテーブルに押しつけた。
「何だよ?」
「俺が先にやってやる」
ゾロの言葉に、サンジは少なからず驚いたようだ。
「別に俺は」
昨日も抜いたしというサンジの声を無視して、ゾロはコックのズボンを手早くずらし下着越しにやんわりその部分を揉みしだいた。昨日サンジが感じていた場所を思い出し、粗暴な扱いはせずに微弱的な刺激を送る。
「んだ、てめ…」
息が荒くなり始め、ちょっと辛そうに眉を寄せる。昨日と同じように。
それだけでゾロの下半身がカッと熱くなった。
やはり錯覚ではなかったと思い知らされる。

──手に入れたい。

初めて、自覚する。
抱きたいのだ。こいつを、この体を。
「う、ん…」
もどかしくも押し寄せる快感にサンジが目を閉じピクリと顎を上げ。
ゾロは左手でコックの形良い小さな頭をつかみ、うっすらと開いた唇へと劣情のままに接吻けた。


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