指先にキスを 4

 

 

サンジを椅子に座らせて、ゾロもその横へ腰を下ろす。
コックのベルトを外し、ズボンごと下着を太腿の辺りまでずらすとサンジのややピンクがかった男根が現れた。もちろん通常の状態である。
同性とはいえ、まじまじと他の男のそんな部分を見たことは当然なく、ゾロは何となくバツの悪い思いがした。自分のものとは、やはり違う。
まあ、それでも同じ器官なんだからとりあえずは擦りゃいいだろうとゾロがそれを握った時、サンジが吹き出した。
「頼むから、んなマジになるなよ。目が怖ェって」
そんな事を言われても、ゾロとしては寝不足でいい加減眠い目を意識して強く見開いていなければならなかったから仕方ない。
ゾロは無視して、サンジのそれを擦り始めた。
「てててっ。痛ェつーの。俺の大切なムスコをちぎる気か、この馬鹿力!」
サンジが喚く。「もうちょっと丁重に扱いやがれ」
「うるせェな」
ゾロは苛々と言い、それでも少し手の力を緩めにした。数秒か数分、機械的に手を上下させるが…。
「勃たねえ。インポか、てめェ」
「んな訳あるか。てめェがヘタクソなだけだろ!だいたいてめェのツラ見てたら、勃つ前から萎えちまうんだよ」
「だったら目ェ瞑っとけ」
「注文の多い野郎だなァ」
ブツブツ言いながらも瞼を閉じるサンジに、どっちがだこの我侭コックがとゾロは言いたいのを止める。口に出すとまたサンジは突っかかってくるだろうし、いつまでたってもこの業が終わらないからだ。
そうでなくても、何が悲しくて野郎のモノを一生懸命擦らなければならないのかとやってる端から虚しさがこみ上げてくるのに。
ゾロを動かしているのは、切迫感。
このままもしコックが最後まで到達できなかったら後々何を言われるか分かったものではなく、自分の立つ瀬がなくなる。
昨日の事に付加してヘタクソだの何だのと余分なからかいの種をサンジに提供するだけであり、それだけはごめんこうむりたかった。
「オイ、どうした。手が止まってんぞ」
サンジが目を閉じたまま、揶揄するように口角を吊り上げた。
舌打ちをひとつして、ゾロは再び手を動かす。自分の時はどうやっていたかなど、改めて考え出すと分からなくなる。女相手の性行為も、もともと細かい技巧を探究する性質ではないのだ。
とりあえず先端から裏筋に沿ってこねるように擦り挙げる。少し形にはなってきたみたいだが、体毛が引っかかって軋みスムーズに動かない。
サンジはじれったそうに眉をしかめ、また減らない口を開く。
「もうお終いか?無理なら諦めろよ。俺もヒマじゃねェんだ」
コックの余裕な顔を見てると何やら腹が立ってきた。
(見てやがれ…畜生)
気持ち悪いとか汚いとか、そんな事よりゾロの意地が先に立つ。
手だけで効果が薄いなら、別手段に出るまでだ。
ゾロは跪いて、サンジの性器に舌を這わせた。
今までと違う感覚にサンジが目を開く。
「てめ───何やってんだっ」
「だからイかせてやろうとしてんじゃねェか」
「にしたってよ…。するか、フツー」
「黙ってろ」
ゾロは言い捨て、サンジ自身を口に含む。毒食わば皿までといった心境だ。
敏感な部分を生温かいものに包まれて、サンジが喉の奥を鳴らした。
口の中で徐々に固さを増すそれに、調子出てきたじゃねえかとゾロは悦に入る。というのも変な話だが、ようやく反応が現れだしたサンジに今までの労が報われたような気さえしたのだ。
吸い上げてチロチロと舌先で弄りながら、補助するように指でも摩る。
「…ふっ、あ」
コックが声を洩らし、先端からぬるりとした液が滲み出てきた。ピクッと反応を示す所を軽く噛むと、吐息が聞こえて髪をキュッと掴まれる。
このぶんなら大丈夫か、とゾロはサンジの顔を見上げた。
上気した頬はほんのりと赤らんで食いしばった唇の端は軽く震えており、眉根を寄せ熱い息遣いをしている。
(何て顔しやがる…)
ありていに言えば、淫らでいやらしかった。
ゾロはサンジ自身から口を離して、指で絡めとるように扱く。
「は、…ア…ッ」
髪を揺らし、乱れた声を出すその様に。
ぞくっ。
下半身に覚えのある、だがこの状況では決して認めたくないような感覚が疼いた。
(まずい)
とは思ったものの、目はサンジから逸らせなかった。
サンジはゾロの状態が変わった事など全く気がついてないらしい。ゾロも手を休めはせず、よりサンジが快感を得られるように、というかそれに付随する表情見たさに緩急をつけてみたりする。
「も…やべ…」
サンジが辛そうに首を振った。ヤバイのは俺の方だとゾロは思う。
渇いてくる喉を潤すように、必死で唾を飲み込んだ。
少し開いたサンジのシャツの襟元から手を入れてみたい衝動が沸き起こる。

できるなら、そのボタンを外して。

脱がせてみたかった。
脱がせて、その白い肌をまさぐって、鎖骨を舐めて、それから。

 

それから。

 

「ンッ!」
堪え切れなくなったサンジが内股が痙攣させた。ゾロの手の平に吐き出される白い精。
ハァハァと荒い呼吸を繰り返し、サンジがトロンとした瞳でゾロを見た。
「───っ」
ゾロはサンジから離れて、そのまま流しに行き手の中のものを洗い流す。
「これでおあいこ、って訳か…」
衣服を整えつつ言うサンジ。
終わったら借りは返したぜとか何とか言ってやろうと思っていたのだが、ゾロは結局無言でキッチンを後にした。
そのままトイレに行き、確認するように自分のものを取り出す。サンジに欲情したのだという信じたくない証がそこにあった。それは怒張しており、捌け口を求めている。正直その状態は苦しく、開放させるためにゾロはそれに手をやった。
無意識にサンジの顔が脳裏に浮かぶのは、どうしようもない。
今まで見たことのなかったコックの顔が。
切なそうな息と達した後の霞んだような表情が。
クッ、とゾロは低く呻くと欲望を迸らせる。
恍惚のすぐ後で、ゾロはげんなりした。
(あんなクソコックをオカズに…)
コックに出させたらそれで貸し借りなくなる予定だったのに、何故こんなことになってしまったのか。
仲間に欲情するなんていうのは始末が悪過ぎる。しかもナミやビビではなくあの憎たらしいコックにだ。
余程自分は切羽詰っていたのかと考えたりした。若い男として肉体を持て余していないとは言えないが…。
しかしいつかは陸に着くのだし、その時適当な女でも抱けばいいだろう。
当初の目的は果たせた。コックに出させるできたのだし、立場としてはどちらが強いなどということもなくなった。
そう、事態としては思惑通りの筈なのだ。
だがどうにも釈然としない、曖昧な不快さは拭えなかった。
昨日から寝てないせいかもしれないと思い、ゾロは男部屋に戻るとハンモックに潜り込む。
だが、さっきはあれほど眠かったのに、いざ寝ようとすると目が冴えてくる。暗闇に先刻のコックの様子が甦ってきて、ゾロはむくっと起き上がった。
酒でも飲んで、その勢いで寝てしまうしかない。
ゾロはサンジが見張り台にいることを祈って、キッチンへと戻った。窓からそっと窺ったが、コックの姿はない。安堵して中に入り、ストッカーからワインを一本引き抜いた時。
「コソ泥みてえな真似してんじゃねェぞ」
サンジが煙草を燻らせて立っていた。
「…別にそんなつもりはねェ」
「本当ならその酒は飲ませたくなかったけどな。特別にプレゼントしてやるよ」
サンジの勿体ぶった言い草に、ゾロはそりゃありがたいなとぼそぼそと返して瓶に口をつけたが。「今日のご褒美としてな」
ぶっ、と酒を吹きそうになるのを抑えて咳き込んだ。
そんな剣士を愉快そうに眺めて、サンジはゾロに近寄る。
「で、俺から一つ提案」
ゾロは聞きたくなかった。許されるなら、しばらくコックには関わりたくなかった。
「こうやって船で過ごしてるとよ、やっぱ男としてはツライ時もあるよな。そういう時には、さっきみたいなのも結構いいんじゃねェかなと思う訳だ」
「…何だと?」
ゾロは自分の耳を疑う。サンジは噛んで含めるように説明した。
「一人でマスかいてんのも虚しいだろ。俺、別にてめェのヤツ触るのは大丈夫だし、てめェもそうみたいだったよな。だからお互いの手で処理してやるっていう解決策。グッドだと思わねェか?」
(思わねェよ)
ゾロは心中で即答した。
ただ単に溜まっているのを解消するならともかく、欲望の対象になりうる奴とそんな事ができるものか。まるで生殺しだ。
ゾロはこんな申し出は絶対断らなければ、と言葉を発した。
「…悪くねェかもな」





 

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