指先にキスを 2

 


触れる動作そのものは慎重だったが、素早かった。
ファスナーをさっと下ろして、その隙間に右手を入れる。下着の薄布を通しての刺激は強く、ゾロはやっと制止の声を上げた。
「止めろ!」
押さえようと腕をつかむが、サンジの指は器用に逃れ巧みにゾロの雄の部分をまさぐった。さすが男同士と言うのか的確なポイントをついてくるその動きに、血が集まり出すのを感じゾロは小さく唸った。
実際、サンジに言われた通り溜まっているのかもしれないとは思う。よほど生理的に辛くならなければ、自分でも処理をしたりはしないのだ。
「反応早ェな」
サンジが口角を吊り上げると、ゾロは反抗するように。
「何言いやがる」
「偉そうに言うわりに、勃ってんじゃねーか」
「てめェが触ってるからだろ。離せ、この変態エロコック」
「変態だァ?人の親切が分からねェ奴だな」
相変わらず咥え煙草で喋り、ゾロのモノを布越しに捉えて。 「ま、そんなに言うなら止めてやるよ」
呆気ないほどあっさり言うと同時に、手を離す。
中途半端に放り出された格好のゾロは正直拍子抜けといった心境だ。
「…ん?何だ、そのツラ」
サンジが顎を突き出し、自分を睨んでいるゾロを挑発するが如くに言う。「離せつったから、お望み通りにしてやったんだろ。それとも、続けてほしいのかよ?」
主張を始めてしまった器官を持て余しているのは確かだが、素直に頷くわけにもいかずゾロはグッと詰まる。サンジがくくくっと笑った。
「いやー、悪ィ悪ィ。冗談でやっただけだって。しかし、お前がマジで溜まってるとはな」
ゾロはカッとなって、サンジの胸倉を取る。
「てめェは人を良いようになぶりやがって───」
「んだよ。ゴチャゴチャ文句言うなら、責任取って続けてやろうか」
「余計なお世話だ」
「じゃあ、トイレでも行って一人で抜いとけ。そのまんま放っとくのも、つれェだろうし」
「誰のせいだと思ってやがる」
恨みがましい口調のゾロに、サンジはフウッと紫煙を吹きかける。
「うるせェなあ。だったら、最後までやりゃ文句ねェだろ」
ゾロの膝の裏にすくうような蹴りを入れる。バランスを崩したゾロは、床に尻餅をついた。体勢を立て直そうとしている所をサンジは押さえつけ、再び空いたままのファスナー部から指を差し入れる。そしてズボンのホックを外すと内部から、待っていたかのように震えるその部分を曝け出させた。握り込んで赤黒い先端を弄ると、ゾロは快感に眉根を軽く寄せながらも抗議する。
「誰も…頼んでねェだろうがっ」
「いいから、さっさと出しちまえ。俺の技なら、すぐにフィニッシュだぜ?」
本気なのか冗談なのか、自信ありげなサンジは手の動きを早める。
そこがどんどん体積を増していくにつれ、とうとうゾロも快感に身を委ねてしまった。
呻くように声を上げると、それに応えるようにサンジの長い指が絡まり扱き上げる。緩急をつけ翻弄する。息遣いが次第に荒くなり、思わずゾロは瞼を閉じた。行き場を求めるように空を彷徨った手はサンジの肩と髪へ。
微かにコロンの香りが鼻腔をくすぐり、シャツのさらさら感と柔らかい手触りの髪は滑らかで心地良いと感じた瞬間。
「っく…!」
限界が急速に訪れた。
強くサンジの頭を掴んでいたゾロは勢いのまま自分の胸に押し付けて、ぶるっと腰を震わせて吐精する。
吐き出してもなお、びくびくと波打つ雄。
つと、サンジがゾロから離れる。ゾロは何と言っていいものやら分からず、ただその顔を見やったが。
「…お前…ついてんぞ」
シャツの胸元と顔に、精液が飛び散っている。サンジが手の甲で拭うようにして、
「てめェが離さないもんだから、かかっちまったんじゃねェかよ。すげえ勢いだったぜ〜。そんなに良かったか?」
意地悪く笑みを浮かべるが、ゾロは快感の余韻もありすぐに言い返す気力もない。
サンジは立ち上がるとシンクへ行き、顔と手を洗う。
「後始末くらいは自分でやれよ」
まだ座り込んでいるゾロに声をかけ、サンジは就寝のためにさっさとキッチンを出てしまった。
ゾロはとりあえず衣服を整え、独り言つ。
「あの野郎…」
体はスッキリしたが、心中は複雑である。
あんなアホエロコックに擦られて出しちまった。
男の手で欲望を放ったというだけでも頭痛がするのに、よりにもよってあのコックに。
情けないのと腹立たしいのと。──自己嫌悪と。


見張り台に戻って、苛々を紛らわす為に酒を飲んでいると夜が明けてしまった。
「朝メシだぜ、クソ野郎ども!」
サンジが下で叫んでいる。ルフィやウソップの眠そうな声が聞こえ、ゾロは目線を落とした。
キッチンにルフィ達がぞろぞろと入っていくのを確かめたサンジが上を見上げ、しっかり目が合う。
「メシだっつってんだろ」
「…ああ」
特に空腹ではなかったが、食事に細かい男なので食わないというと一悶着ありそうだったから、ゾロは見張り台を降りた。
「珍しく素直じゃねェか」
ふふんとサンジはゾロと反対に、機嫌が良さそうだ。「昨日のご奉仕が効いたか?」
「なっ」
ゾロがギョッとするのも構わず、サンジはキッチンの扉を開ける。
腕まくりをして手早く朝食の采配をするサンジの姿は、ゾロにとって面白くない。
(何のつもりだったんだ…)
徹夜明けでもあり頭はあまりはっきりしないが、つらつらと思いを巡らせてしまう。
昨夜あんな事をしておいて、普段通りしれっとしているサンジの神経が分からない。
からかっただけで特に深い考えもなかった行動なのだろうが、性質の悪い話である。いや、サンジが性質が良いとはお世辞にも思ってはいないゾロだが…。
口調にしろ態度にしろ、粗暴でアホで捻くれていて。同い年でも話が合うわけでも何でもない、むしろその逆だ。
(けど変に上手かったな、コイツ)
同じ男だけにツボは心得ていたし、細い長い指は見た目に違わず器用で。
髪を触った時に、自制できずイッてしまったのは否定できない。
とは言え、サンジである。
外見こそすらりとした体に金髪のそこそこに整った顔(眉毛以外は)だが、ガラは悪いわ足癖は悪いわで、例え男色家だったとしても扱い難いことこの上ないだろう。ノーマルなゾロにとっては論外もいいところである。
今だって、ナミさんの分に手を出すなって言ったろとグリグリと船長の腹を踏みつけながら顔を歪めているその様は、当然ながら色気も何もない。
それでも、昨夜。その頬や口の辺りや胸元にゾロの出した白い液体がついていたのを思い返せば。
(あの顔は妙に色っぽくて)
艶があった。
そこまで考え、何でわざわざ反芻してるんだと、ゾロは眩暈すら覚える。
──色っぽい?色っぽいだと?
冗談じゃねえ。
いくらコックの手で出しちまったからって、そんな風に思うのはおかしすぎんだろ、俺。
だいたいそれこそ、そんな色っぽい事態ではない筈で。
悪ノリの限度が過ぎただけの事だ。
それにしても、ノリと言えど昨夜の事が妙な弱みになるのではないかと気が重い。
先刻ふざけてさらりと言われた、ご奉仕どうのこうのという軽口のように。
人の悪いコックは、剣豪をからかう良いネタができたとでも思っているのではないかと勘ぐりたくなってしまう。
「何してんだ、てめェは。早く食えよ」
こめかみを押さえて俯き、さっぱり食事の進まないゾロにサンジが呆れ口調で言った。「てめェは食うだきゃ食うから、それだけが取り得なのによ」
見れば全員朝食は済ませており、ルフィ達は既にキッチンにいない。ナミとビビが紅茶を飲んでいるだけだ。
ゾロは目の前にある皿の中身を殆ど噛まずに胃へと落としていく。
コックが不審そうに眺めているのを感じて、味はあまり分からなかったが。
「どうかしたの、ゾロ。あんた好き嫌いとか、食が進まないなんてことなかったのに」
「うるせェな。何でもねえよ」
パンをスープで流し込みながらゾロが撥ね付けると、サンジが突っかかってきた。
「クラ、てめェ。ナミさんに何て言い方しやがる」
「いいのよ、サンジくん。ゾロにだってたまには悩みもあるのかもしれないし」
ナミが神妙な表情で。親指と人差し指でマルを作った。「何なら相談しなさい。タダじゃないけどね」
「ハッハー。悩み?こんな単純クソハゲマリモに、そんな高等なモンがある訳ないって」
サンジがちゃんちゃらおかしいというように、わざとらしく嘲笑する。
…てめェが原因なんだよ、てめェが!
ゾロは大声で叫びたかったが、サンジ一人だけでなく魔女や王女までいるこの場では、そんな事ができる筈もなく。
むかっ腹を立てながらも、無言である。
サンジは怪訝そうにそんなゾロを見ていた。通常ならばここで喧嘩になるのにと。
焦燥感に舌打ちをするゾロに、女性二人は剣呑な空気を感じたのか出て行った。
二人きりのこの隙に。
コイツを何とかしなければ、とゾロは思う。
何とか、と言っても具体的にどうしようという策がある訳でもないのだが。
基本的に色々と細かい事を考えるのは、性に合わない。だったら直接体当たりする方がいい。結果から対処法をどうすれば考えればいいのだと。
だが、それは間違っていたのかもしれない。

…と、後で思った。

 

 

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