autumnal tints

 

 

「こういうのも狂い咲きって言うのかね。もう十二月だってのに」
「花じゃねェんだから咲くとは言わねェだろうよ。次々に落ちてるし」
「まあでも、ある意味花より見事な色合いだと思わねえ?俺ァ桜も好きだが、紅葉も雰囲気あって好きだな。お前はどうよ」
「花見酒はあっても紅葉酒はねェしな…」
「ったく風情を解しない男だな。ちょっと見渡してみろ、この景色の美しさ。そして隣には愛しい恋人。いや〜幸せだよなあ、てめェは!」
「分かったから背中を叩くな。それより何か腹減った」
「全然分かってねェじゃねえかよ」
「だから蹴るな。よく考えたら朝と昼一緒にしたから腹空くのも当然だ。さっき向こうでホットドッグとか売ってたし、ちょっと買ってくる」
「てめェは、俺とホットドッグのどっちが大事なんだ」
「…頼むからそんなのと張り合うなよ」
金髪を掻き雑ぜると、彼は軽く舌を出してみせた。
ゾロは小走りで来た道を戻る。
かさかさと葉を踏む軽い音が響いた。
普段なら公園に続くこの煉瓦の道を革靴で歩けば、一つ一つの靴音がもっとはっきりするだろう。しかし今は重なり合う色とりどりの葉が柔らかく吸収している。
時期的には晩秋を終えて冬に向かおうとしているのだが、現実には遅れた紅葉が綺麗な暖色に木々を染め上げたところだ。
休日を共に過ごすのは久しぶりだった。
休みじたいなかなかお互いに取れなかったし、取れても日にちがずれる。今日は漸くと言うか殆ど、もぎ取るようにして無理矢理休みを合わせたのだ。昨日はサンジがゾロの部屋に泊まり、何度も体を重ねてシーツに蕩け込むみたいに眠った。ゾロもだがサンジも疲れていたせいだろう、同じ時間に寝てもいつも早く起きる彼にしては結構朝寝坊をした。もちろん、休日だから誰にも何にも咎められたりしない。珍しく彼の寝起きの顔と寝ぼけた様子が楽しくてごそごそと布団の中でキスしたりじゃれあったりしているうちにまた肌が熱くなって本気の愛撫が始まった。昨夜散々抱いたのに点いた火の勢いは止められず、止める気もなく。やっと起きた頃には日が随分高くなっていた。
朝っぱらからこのケダモノとサンジは、ハムエッグをがっつくゾロの膨らんだ頬を抓ったが真剣に怒っているのでは別にない。
外にこうして出てきたのは、映画とか遊園地とかのデートらしいデートをしにきた訳ではなく窓から遠くに見えた公園の辺りが随分と鮮やかに色づいていたので、サンジが買い物がてらぶらつこうとゾロの腕を引っ張ったからだ。
特に目的地などは決めなくていいとゾロも思う。
サンジと過ごす事が最大の目的だから場所も風景もゾロにとっては二の次だ、どうだっていい。
彼さえいれば。
然して大きな公園でもないし紅葉名所でもないのだが行楽客目当てにいくつか出ている屋台で、ゾロはホットドッグとそれからポップコーンとコーラを買った。
目に止まったついでと言えばそれまでなのだが、やはり空腹だからか思ったより多く買ってしまった。
呆れ顔をされるかなと思いつつ、さっきのところまで戻ったがサンジがいない。
ゾロは顔を巡らせてみたが、見当たらなかった。ここで下手に探しても迷子になる可能性が自分は高い。考えた挙句暫く待つことにした。サンジの携帯電話に連絡しようにも、ゾロが充電器に差したまま携帯は部屋に置いてきてしまっている。基本的にサンジと待ち合わせたり遠出したりする時に便利だろうと購入したので、近所に買い物ぐらいで持って歩いたりはあまりしないのだ。
そろそろ夕方へと差しかかり、通行人も大分減ってきている。家族連れは帰ってしまう時間帯だし、デート中のカップルもかなり冷え込んできている為か大していなかった。
待ちながらホットドッグを食べ、ポップコーンも食べる。と言うかコーラで流し込む。サンジがどこかにいないかキョロキョロしているので味わう余裕などない。
十分程経ちポップコーンはまだ大量に余っていたが、ゾロは探しにいこうと決めた。暗くなっては探すのも厄介だ。サンジが迷子とは考えられないが、勝手に帰ったりしないと分かっているからここに戻ってこないのには何らかの理由がある筈だ。
奥に入れば並木道で、ベンチがポツポツと距離をとって置かれていた。
道はすっかり落ち葉で覆いつくされていて、ゾロの歩調に合わせて忙しく鳴る。 これじゃ例え探偵でもサンジの足跡を探すのは困難だなと思った。
進んでいくと、すぐに公園の出口が見える。既にここから出てしまったのだろうか?
今一度来た道を振り返って出るべきか公園の中を改めて探すか躊躇した刹那、唐突にいくつも並ぶ木の影からサンジがひょいと姿を現した。
「ああ、悪い!心配したか?」
「お前は──」
ほっとしたのと反動で文句を言ってやりたくなってつかつかとゾロはサンジの方へと歩く。薄暗かったのもあり、視線はひたすらサンジに向いていたので段差があることに気がつかなかった。
つんのめったゾロを、はっしとサンジが捕まえたまでは良かったが下がデコボコで湿った葉のせいもあり足場が悪かった。
倒れたりはしなかったものの互いに支えようとふらついて木に当たってうっかり枝を折り、ゾロは手にしていたポップコーンをそこら中にばら撒き、公園の管理人から苦情が出そうである。
「…誰も見てなくて良かったな。大の大人が何してんだって感じだぜ、きっと」
サンジが木にぶつかった時頭に振りかかった紅葉や銀杏の葉を手で退けた。
金髪からパラパラと小さな赤や黄が踊り、時間の流れを無視するみたいにふわふわとサンジの体の周りを優雅に落ちて、ゾロは無意識に目を細める。
「……くそ。勝手にどっか行くなって言ってやろうと思ったのに」
「のに?何だよ」
「言う気なくなった」
サンジは膝を曲げて屈み、ふふんと楽しげにゾロを見上げる。
「何だ、見惚れちまったか?紅葉の精がいればかくやあらんとぱかりの美しさに」
「そんな精聞いた事ねえし。けど、何で急にいなくなったのかぐらいは話せよ。人心配させといて紅葉狩りとか言ったらぶっ飛ばすぞ」
「あー…」
「まさか図星じゃねェだろうな」
「いや、紅葉狩りってか…俺はそれも悪くねェけど、てめェの場合紅葉なんか集めても嬉しくねェだろ」
「俺のことは、この際どうだっていいんだよ」
「うん、だからさ。つまり俺が探してたのはギンナンだ」
「はあ?」
「せっかくだし秋の味覚。今日の晩飯で茶碗蒸しに入れようと思って」
サンジが手を広げてみせた。「これがまた探してもなかなかなくってさ。業者がギンナン一斉収穫とかしたのかもな。見たトコ、もともと銀杏の木も少ねェし…ああ、これも雄だし駄目だ」
「オスって…オスとかメスとかあんのかよ」
「お、知らねえ?雌の木からしかギンナンの実はできないんだぜ」
得意げに講釈を始めようとするのを手で遮りゾロは大きくはあ、と溜息をついた。
サンジにしてみれば多分すぐにでも見つけてさっきの場所に戻るつもりだったのだろう。料理の為とは言え結局はゾロの為だ。怒るにも怒れない、これでは。
「──ギンナンは別にいいから、それこそ紅葉狩りでもしてくか?」
ゾロが夕陽を浴びて益々赤みを帯びる木々を見上げて訊ねると、サンジがにやにやとして冷やかした。
「おやおや、急に風流な事言い出すな。どういう心境の変化だよ」
「メシん時、紅葉の天麩羅でも作ってくれ。ツマミにする」
「…やっぱりゾロはゾロだな」
「悪かったな」
「いーえちっとも。そのまんまのアナタが大好きですから」
「お言葉、そっくりそのままお返し致します」
ふざけた口調に合わせて応じる。しゃがんで赤とオレンジの混ざり合った葉を拾っていたサンジが立ち上がった。
「イロつけろよ。俺の愛情は上等品で高いからなァ。三倍返しくらいでねえと」
「体で払っていいならな」
「じゃあ早速今夜からご奉仕してもらおうか」
「おう、覚悟しやがれ」

笑いながら足を踏み出せば枯れ葉が静かに歌う。
歩いて。手に触れて。唇も寄せて。
秋色の時間を彼と一緒に抱きしめよう。

 

-fin-
20031223


[TOP]


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送