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「いーい天気だなあ」
「おう」
サンジが首が痛くなるほどに空を見上げ。
ゾロは芝の生えた、なだらかな斜面にごろりと横になる。
「こっちの方が楽だ」
「寝転ぶなよ、ゾロ。その雑草頭じゃ芝生と見分けつかなくなるぜ」
「言いやがったな、ひよこ頭」
ゾロがじゃれるかのようにサンジの腰を抱えた。
「止めろ、アホ。あ〜あ、見ろ。芝が服についちまったじゃねえか。どうしてくれる」
「別にスーツとかじゃねえし、いいだろ」
「俺の服をてめェの安物Tシャツと一緒にすんなよな」
文句を言いつつもサンジも一緒に仰向けになる。
オフィス街にぽつんとある公園は日曜日のせいか閑散としていた。
「──もう昼過ぎたよな。腹減ってきた」
ゾロが大きく伸びをすると、服についた草を払う。
「ふっふっふ。ちゃんと俺様特製のスペシャルデリーシャスな豪華弁当作ってきてやったぜ。おら、感謝の言葉は?」
「へえへえ。アリガトウゴザイマス」
おにぎりを掴もうとしたゾロの手をサンジがぴしゃりと叩く。
「何だァその棒読みは。ったく、お前が休日出勤だって言うから部署も違うのに出てきてやったんだぜ。しかも弁当作って!それなのにお前のその愛想のない対応ときたら!いくら仕事が詰まって忙しいからってなあ、心の余裕がなさすぎ…」
「分かった分かった俺が悪かった」
宥め賺してサンジの肩を抱き、ようやく弁当にありつく。二人分には多かったが、外だと普段より食も進むものだ。食い過ぎたと呻きながら、ゾロは再び芝生に転がった。暑くもなく寒くもなく木陰になっているから日差しもそう強くはない心地良い環境、うとうとと微睡んでしまうのは自然の摂理だ。ふと目を開くとサンジがいない。
「ん…」
黙って帰ったりはしないのは分かっていた。飲み物でも買いに行ったのかなと、ゾロが顔を巡らせる。
「起きたか?しかしお前、どこでも寝るんだな。その神経の図太さには恐れ入る」
笑みを含んだサンジの声は、妙な方向から聞こえてきた。
「……何してんだ」
「木登り。見りゃ分かんだろ」
それはそうなのだが、それでも聞かずにはいられない。少年とは言い難い、いい年齢の男が木に登っているという突拍子もない光景は一般的にはあまりお目にはかかれないだろう。
「イヤだから、どういう理由で登ってんのか聞いてんだよ」
「わりと気持ちいいぜ?風は強いけど」
枝に座ったサンジは、革靴などでは登り辛かったのか裸足だった。楽しげな様子で足を交互にブラブラ揺らしている。「お前も登って来いよ」
「馬鹿言うな。俺なんかが登ったら間違いなく枝折れるぞ。自然破壊もいいとこだ」ゾロが苦笑するとサンジが腕を伸ばした。
「そう言わずにやってみろって。これなんか太くて枝振りもいいからお前でも多分大丈夫じゃねえか?」
「おい、あんまり身を乗り出すな──」
注意した刹那、サンジの体がぐらついた。「危ねえ!」
「うわ」
ばさばさと葉を派手に散らしながらサンジがゾロの上に落下する。
「つつ…大丈夫か?」
「ああ。俺はな。お前こそ、立てるか」
「当たり前だろ──…お?」
立ち上がった途端傾ぐサンジの体を咄嗟にゾロが支えた。
「言わんこっちゃねえ。捻挫したんだろ」サンジの足首を検査するかの如く撫でる。踝が徐々に腫れてきていた。
「いて、触んな」
「病院行くか。けど日曜だしな…救急病院でも探すしかねえ」
「平気だって、湿布でも買って帰るし。それよりお前そろそろ仕事に戻らねェとまずいだろ」
「んな事気にすんな。…ほら」
しゃがんで自分の背中を指し示すゾロにサンジが呆気に取られる。
「は?まさかおんぶすんの?」
「仕方ないだろ。さすがに抱っこはできねェだろうが」
「肩でも貸してくれりゃ、それでいいのによ」
「無理に歩いて悪化したら余計に始末悪いからな。早くしろ」
サンジはいくらか躊躇ったものの、ゆっくりとゾロの背中に体を預けた。公園を抜け大通りへ入る。平日と違って人が少ないのはまだ幸いだっただろうか。ゾロは他人の目など然して気にしないが。
「…へへ」
「何笑ってんだ」
「や、何か?怪我して得したかなとかさ」
「アホ。だいたい年甲斐もなく木になんざ登りやがって」
ガキかよ、とゾロに軽く叱責され、サンジが面白くなさそうにぶつぶつ背中で呟いた。
「だってよ、気持ち良かったぜ」
「まだ言いやがる」
「高いところにいるとな、見慣れた景色も違って見えるしすげえ新鮮な感じでさ。お前にも良い気分転換になるかと思ったんだ」
ゾロの足が止まった。
「お前、それで…」
「あ?」
「いや、何でもねえ」
その思いだけで十分だ。サンジには見えないように微笑むと、また歩き出す。
何だよ言えよ、とサンジが挫いてない左足の踵でゾロの太腿を蹴る。
「蹴んな。背負ってやんねェぞ」
「俺が背負われてやってんだ。頼んでねェよ」
「こっちだって別に進んでやってる訳じゃねえ」
「やーれやれ、無粋野郎め。愛するこの俺をおんぶできて幸せだ、くらい言えねェのかね」
「ずっと後ろに背負ってちゃキスもろくに出来ない。どっちかってえと不幸だ」
「…やっぱり無粋な奴」
非難する口調とは逆にサンジはゾロの首にこれでもかとしがみつく。

ふわり穏やかな空気がゾロの頬を撫でサンジの髪を靡かせて通り過ぎた。五月の風は、優しい。


-fin-
03.5.15


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