sakurasaku

 

 


ピ、ピ、と小さく鳴る目覚まし時計代わりである携帯電話のアラームをすぐに止める。
サンジはちらと横で眠るゾロに視線を移したが、彼は未だ夢の世界の住人らしい。
無意識に微笑むと、そっと布団から出て顔を洗う。
煙草を咥えてコーヒーの準備。ゾロは気にしないが、サンジがインスタントがあまり好きではないのでメーカーで淹れる。入ったコーヒーに牛乳を少し注いで飲むとようやく目も覚めてきた。
軽めの朝食を手早く作って済ませ、彼の分はラップをかけておく。
いつもいつも作ってやるわけではないが、放っておくとゾロはカップラーメンか何かで適当に済ませるのが目に見えている。
柔らかいタオル地のパジャマをするりと脱いで、グレイのズボンを履くとシャツを着てボタンを留め、次はネクタイ。毎日の手順なので慣れたものだがネクタイが歪んでないかどうかはちゃんと見なければと立ち上がりかけた時、肩に手をかけられた。
「…おはよう。起こしちまったか」
「起こせよな」
「のんびりと寝てりゃいいだろ。お前は出張明けで休みなんだからさ」
「もう行くのか。えらく早いな」
「ああ。お前はもうちっとゆっくりしてれば?腹減ったんなら、そこに置いてあるから食っとけ」
「──怒ってんのか。昨夜すぐ寝ちまったから」
「べっつにい?久々に泊まりに来てメシ喰った途端にバタンキューだなんてよっぽど疲れてんだなあって」
「向こうでトラブル続きだったからな…つい」
「お前、不得意だもんなあ。殆ど知らねェ土地で一週間、マシンより人に慣れんのが一苦労だったろ」
「ああ。だから、帰ってきてお前の顔見て気が緩んだ」
ゆるゆるとサンジに近寄って、くちづける。勢い敷きっぱなしの布団に二人して倒れ込んだ。
「ん」
サンジが身を捩るが、ゾロは構わずあらゆる所に甘くキスを落とした。耳に、項から鎖骨に。
「止めろって…服が皺になる」
「まだ時間はあるだろ?」
「朝から腰立たなくなったらどうすんだ、アホ。久しぶりだと特に、てめェは加減きかねェからな」
シャツの中にごそごそ手を差し入れかけたゾロの頭をぽかりと殴った。「それに今日は早く行って、色々準備しなきゃなんない。呑気にしてる時間はねェんだよ」
「準備って、何の」
軽く膨れたような表情を見せ、ゾロは渋々起き上がる。
「新入社員まとめて入って来んだろうが。説明役なんだよ、俺は。課長に弁舌爽やかな所を買われちまってさ」
「そうか…もうそんな季節なんだな」
「ああ、そんな季節だ。リクルートスーツ初めて着てドキドキ、てなもんだろ。俺達もそんな時期があったよなァ。お前今より更にネクタイとか似合わなくて」
「お前は似合い過ぎで」
「…喧嘩ばっかしてたよな、最初は」
サンジが出会った頃を思い出したのか苦笑いする。「っとと、しみじみ懐かしがってる暇はねェっての。とにかく机とか並び替えたり、配るデータもまだチェックの必要あるし。急がねェと」
上着をハンガーから外して羽織りきちんと前を合わせると、鞄に入っている持ち物を調べる。
「最近忙しそうだな」
「お前みたいな技術屋にゃ分からねェだろうけど、うちの部署は結構入れ替わりが激しいからな。入ってくる人数は結構いるぜ?へっへ、女の子も多くてなァ。写真で見た限りじゃ美人揃いでさ。いやいや、目の保養だね。ステキな先輩としてひとつビシッと決めていかねェと」
「それかよ」
「妬くな妬くな」
しかめっ面のゾロを、サンジは楽しそうに斜に眺めて洗面台の鏡を見つつ髪を整える。
「知ってっか?てめェが出張行ってる間に川向こうの公園の桜も満開だ。帰ったら一緒に見物に行こうぜ」
「おう」
冷蔵庫から牛乳を出し、そのまま口をつけては煩い恋人がいるのでコップに移そうとパックを手に振り返るゾロの前にサンジが立っていた。
「…何だ?」
「行ってらっしゃいのキスしろよ。鈍いぜ?ダーリン」大仰に溜息をつく。「まったく、そんなことじゃいつ愛想つかされても文句は言えねェなあ」
チッチッチッ、とサンジは頬を差していた人差し指を振って見せて、顎をつんと反らす。
「鈍くて悪うござんした。どうせむさ苦しい俺なんかよりも、若いピチピチの女とかの方がいいんだろ」
「だといいんだけどよ。目の前にいる寝ボケ面の野郎もかなり捨てがたいんだこれが」
僅かに眉を上げてから微笑んだゾロが抱き寄せるに身を任せ、サンジは彼の耳に囁いた。「だって、なあ」

俺愛されちゃってますから。


-fin-
03.4.12


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