優しすぎる日に

 

 

 


「お前が好きだ」

 

───深夜の見張り台に夜食を持ってやってきたサンジが発した台詞は、唐突で。
冗談も本気とも判断できずに、ゾロは一瞬固まる。
どれくらい時間が経ったのか。
舌で唇を湿して、
「…何だって?」
と聞き返すまでには、少なくともサンジの口元にある煙草がフィルター近くまで燃えるまでの時間を要したことになる。
「聞こえなかったのか?」
サンジの声は抑揚がない。
「いや、そうじゃねェが」
「迷惑か?」
「───」
淡々と言われ、ゾロは二の句が継げない。だが質問された事にはやはり答えなければならないと妙に律儀に考える。
「…ああ、困るな」
サンジは目線を下に落としたかと思うと、肩を奮わせ始めた。
泣かせちまったのかとゾロは少し慌てる。
「おい…」
だがサンジは泣いているのではなかった。肩の揺れが大きくなり、やがて堪え切れなくなったように声を上げて笑い出す。
「だはははっ!冗談だ、冗談!お前、本気にしたか?ちょっとからかっただけだっつーの」
「あァ?てめェ、ふざけんな!」
「ジョークも分からねェか、このクソマリモは」
笑いながらも、揶揄するのを止めない。「告白されたのなんて初めてだったんじゃねェの。マジな顔しやがって」
「うるせェ、アホコックが。くだらねェ真似すんじゃねえよ」
ゾロはタチの悪い冗談だと分かり胸を撫で下ろす思いだ。だがいつまでも笑っているサンジには苛々させられる。
「けどよ、お前。もう少し相手を傷つけないような断り方とかベンキョーした方がいいぜ?」
「大きなお世話だ」
「ま、てめェなんぞを好きになってくれるレディなんか滅多にいねェだろうし、余計な気遣いってヤツか」
皮肉めいた調子で言うと新しい煙草に火を点け、サンジは見張り台を降り始める。
「───冗談なんだろ?」
ゾロが確認するように声をかけるとサンジはフンと笑った。
「当然。このラブコック様が野郎に本気で好きとか言う訳ねえじゃねェか。安心しろ」
憎らしい物言いはいつものサンジでそれにはややホッとしたが。何か釈然としないものをゾロは感じる。
何故そんな冗談を言う必要があったのだろうと。
 

 

空が白んできたので見張り台から降りていくと、ちょうど朝食の用意をするためにキッチンへ向かうサンジと会った。サンジはゾロを一瞥すると、そのままキッチンへと入っていく。
普段から決して仲のいい間柄ではないが、挨拶程度の会話くらいはする。どうも様子が変だった。それに、サンジの視線が気になる。
氷のような冷たい瞳が。
昨夜見張り台で話した時は普段通りだったのに…。
まあ気まぐれなコックのことだから、ただ機嫌が悪かったのかもしれないが。
ゾロは欠伸をして甲板へごろりと横になる。春島が近いのかさほど寒くはなかった。
日差しが本格的に暖かくなり、ウトウトしだした頃。
「ゾーロー!」
腹に体重を一気にドスンとかけられ、ゾロは息が詰まった。
「…てめェ」
至近距離にあるニコニコしている船長の顔を睨む。
「メシだぞメシッ!」
「普通に起こせ。しかし、お前が呼びにくるなんて珍しいな」
ゾロは船長の体押しのけ、立ち上がる。
「サンジが呼んでこないとメシ食わせないって言うしさ」
「クソコックが?」
剣を差し直してゾロは訝しげに眉根を寄せた。
またも違和感。
食の管理をしているのはサンジだから食事を知らせるのもサンジだ。ゾロがあまりにも熟睡していると放っておかれるが、たいていは叩き起こされる。
よほど手が離せないのか、それとも…。
キッチンに入るとテーブルには料理が既に並べられている。
朝食が始まって、目の前の食事を適当に口に突っ込みながらゾロはサンジを見るが、コックはいつも通り分配作業に忙しく剣士のことなど気にかけたりはしない。
「サンジ、お代わりっ」
「そりゃいいけどよ、お前もう少しちゃんと噛めよ」
サンジがブツブツ言いながらも、ルフィの皿に肉のスープ煮を注いでやる。
ゾロは皿を持って席を立つと、コンロの側にいるサンジに声をかけた。
「まだ、あるか?」
食べたいというよりはコックの反応を見る為に。
サンジはちらと目線を寄越して顎で鍋を示した。自分でよそえと言いたげに。
そして、ナミの方へと向き直る。
「ナミさ〜ん、食後のコーヒーでもどうだい?」
「ありがと。今日はちょっと濃いめにしてくれるかしら」
「かしこまりました。では、サンジスペシャルブレンドを」
大袈裟にお辞儀をする。
ゾロは皿をそのまま流しに置いた。
(…避けられてる、のか?)
細かい事を気にする剣士ではないが、サンジの態度はあまりにもあからさまだった。
何故かは分からない。いや───。
昨夜のことくらいしか思い当たる節はないのだが、それでも。
冗談だったとコックは笑った。
女好きのエロコックが、自分を好きなどという酔狂は冗談でしかないだろうとゾロも思う。
しかし本当にそうなら、何故今朝になって態度が豹変しているのか。
不可解だった。
島が近づいて騒いでいるクルーたちの話には加わらず、ゾロはサンジを睨みつけるようにして眺めた。
別に愛想良くしてもらいたいなどとは思っていないが(されたら気味が悪い)、同じ船に乗っている以上変にぎこちなくなるのは気分の良いものではない。
「───じゃ、次の島でログが溜まるの待ちましょうか。着いたら買い物も色々しなきゃね。サンジくんの誕生日も近いし。何か欲しいもの、ある?」
ナミの言葉にサンジは相好を崩した。
「お祝いしてくれるなんて嬉しいなァ。けど、愛があれば充分です。何ならプレゼントはナミさん自身でも…」
がすっ、と音がしてナミに殴られたコックがテーブルに突っ伏した。
「俺の誕生日にも皆でお祝いしてくれたよな。俺も何かサンジにプレゼントしたい」
チョッパーが言うと、サンジはフッと笑って。
「ガキに物せがむ程、俺は困ってねェよ」
「ガキって言うなよ!」
「あー、悪かった悪かった。とにかく、男にプレゼントなんて貰っても嬉しくねェの。分かったか?」
チョッパーがプッと頬を膨らませた。
ゾロ以外と接するサンジは、いつもとまるで変わらない。
クルーたちが自分の事をする為にキッチンを出て行くとサンジはテーブルに置いてあった皿やカップを集め始め、ゾロの前を素通りした。
「おい。何シカトしてやがんだ」
ゾロが言ったが、サンジは背中を向けたままでガチャガチャ音を立てて洗い物を続ける。「───聞こえてんだろ。返事くらいしろ」
「うるせェよ」
「あ?」
「てめェ、うぜぇから俺に近寄んな」
サンジは低い声でピシャリと言い、食器を片付けるとコーヒーフィルターと挽いた豆を手早く棚から取り出した。
お湯をゆっくり注いでいくと、コーヒーの匂いがほんのり広がる。
「喧嘩売ってんのかコラ」
ゾロがサンジの肩を掴む。「いったい何が気に入らねェのか知らねェが───」
サンジがそれを払いのけた。
「うっせえつってんだろ。俺の事なんか放っとけ」
怒気を含んでいるのならまだゾロとしても対処のしようがあるのだが、サンジの声や態度は静かで、争いにもなりようがなかった。
「さ、ナミさんにコーヒーだ」
トレイを手に出て行くサンジの背中を不愉快そうに見るのみである。

 

…いつからって?

そんなの分かりゃしないんですよ、レディ。
初めて会った時から、俺はあんなヤツは大嫌いだったし。
いや、目障りだったって言った方がいいかな。
鬱陶しい男なんだぜ、本当に。
馬鹿な理想を挑げて、それしか殆ど見てなくて。
人の目なんか気にもしない。人の事なんか、考えもしない。
俺と違って、気の回る台詞のひとつも言えない、不器用な男なんです。
何かこうして並べると、最低だよな?

最低な男だけど。


俺が、好きになったのは、あの男だったんです。


 

サンジの状態は、一週間ほど経っても変わらなかった。
同じ狭い空間で過ごしているのだから、どうしても顔は合わせる。
それでも、サンジはゾロに徹底して関わらない。
近づこうともせず、話もどうしても必要でなければしない。
ただ他のクルーにはいつもと変わらないから実質的な被害者はゾロのみだったが。
被害、というのも変な話かもしれない。コックの剣士に対しての振舞いは表面上は安穏だった。
しかし、いっそ喧嘩でも出来た方がマシだとゾロは思う。
緩やかだがはっきりとした拒絶よりは。
あの夜から、サンジが変わってしまったのはゾロも分かっている。
だが、サンジにそれを直接ぶつけても解決策は得られなかった。
あれは本気だったのかと聞けば、何の事だとかわされる。それでも食い下がると、サンジは笑うのだ。
楽しそうにでは無論ない、渇いた笑み。
俺のことなんか別にお前には関係ないだろ?と。
ゾロはそうなると何も言えなくなってしまう。もともと話術に長けた男ではないから、それ以上話を続けられなくなってしまうのだ。
関係ないと言えばその通りだし、別に無視されてる訳でも直接的な嫌がらせもされてる訳でもないから、問題は特にない。
しかし、 どうにも居心地は悪かった。
もともとコックは短気だったし、ゾロとも何かとつまらない小競り合いはしょっちゅうしていたのに、それもここ数日は全くなくなって。
歯車が微妙にずれたような感覚。それは日を追う毎にどんどん大きくなっていた。
「───島が見えてきたぞっ!」
特等席でルフィが嬉しそうに叫ぶ。デッキチェアに寝そべっていたナミも腰を上げた。
「さ、上陸準備をしないとね」



そりゃ最初は。
こんな感情認めらんねェと思った。
だって、俺は普通の男だった筈なのにね。
いつか貴女のような素敵なレディを見つけて、一生を尽くして幸せにする筈が、どこからどう狂ってしまったんだか。


自分の思いを打ち明ける気もなかった。
あいつだってノーマルな男で、野郎に興味なんかある訳ないって分かりきってたから。
それ以前にね、恋とか愛とか。そんなのとは無縁な奴なんです。
あいつが見据えてるものは世界の頂点だけ。
ただ、それだけだから。


…俺の想いは、奴の邪魔にしかならない。


 

「今日は、ちょうどサンジくんの誕生日か。せっかくだし、どこかのホテルでも借りて皆で誕生日パーティでもする?」
「いや、いいよ、ナミさん」
揃って下船し、クルー全員で街へ向かって歩きながら、サンジは所在無く微笑んだ。人に世話するのは慣れているが、自分がされるのは落ち着かないという風情だ。「どうしてもってんなら、料理は俺が作るし」
「そう?じゃ皆で買出しね、今日は」
ナミが纏めるように言うのをルフィは聞いているのかどうか、先頭を切ってスキップでもしそうだ。
島は小さめだったが、貿易が盛んなのか街そのものは発展している。物資補給にも困らないだろう。
ゾロはこういう時には大抵一番荷物を持たされる。それは今回も例外でなく、ナミやサンジが買っていく食物や酒、雑貨などを次々に渡された。
買い物する人々でごった返している中で迷子になってはかなわないから、ぴょこんと突き出ているコックの頭を目印にその後をついていっていると、いつのまにか船長やナミたちの姿は見えなくなっていた。
何かを買ってサンジが麻袋をゾロに手渡す。荷物の多さに危うく落としそうになり、サンジがしっかり持てと短く叱りつけるかの如く言った。
「都合の良い時ばっかり俺を使いやがって」
文句を言うゾロをサンジは見もせずに、果物を吟味している。ゾロは益々むかっ腹が立ち、
「てめェはいったい何だってんだ。変な冗談言ったかと思えば、無視みたいな事しやがる。さっぱり分からねえ」ここ数日の苛立ちをぶちまけた。
「ハッ、てめェに理解されようなんて思ってねェさ」
サンジは咥え煙草で突き放すように。「てめェはただ体鍛えて、戦って、大剣豪でも何でもなりゃいいんだよ。マリモ頭が余計な事考えたら禿げるぜ?」
「てめェ…!」
自分を怒らせようとしているとしか思えないサンジの口調に、荷物も何もかもかなぐり捨てて殴ってやろうかと思った。
と。
「貴様ら、麦わらのルフィの仲間だな!」
怒声が響いた。見れば海軍の服に身を包んだがっしりとした男たちがずらりと立っている。
「ちっ、折角買い物してんのに」
サンジが舌打ちする。
「ここは人が多いし、ひとまず逃げるか」
「ああ」
ゾロとサンジは、ほぼ同時に地を蹴って走り出していた。

 

 

悔しくて辛くて堪らなかった。
何でこの俺が、あんな男のために色々考えなきゃいけないんだろうって。考えても、救われる訳なんかねェのに。
ここまで絶望的な片思いは初めてだった。


一言でも気持ちを伝えたい、そんな風に切羽詰った事もある。
好きだと言ったら、あいつは笑っちまうくらい間抜けな顔で驚いてたけどな。

その時、絶対に叶わない恋だと思った。

だからね、俺は決めたんです。
あいつを出来るだけ、心から追い出してしまおうって。
関わらない、話をしない。
中途半端に仲間としての関係を持つのはかえって辛かったから。
せめてあいつの存在を追い出すことで、俺のプライドは保たれる気がしたから…。
馬鹿げてる?そうですね、本当に。

 

海軍の追っ手はどんどん増えていた。この小さな島のどこに、これほど海兵が潜んでいたのかというくらいに。
早く船に戻らなければと思うが、走ってきた方向はどうも港とは反対の街外れだった。
木の陰に身を隠しながらも、このままでは見つかるのも時間の問題だ。
「適当にぶった斬って、港まで戻るしかねェか」
ゾロが刀の鍔を鳴らす。と、サンジがそれを押えて。
「あの人数だしキリがねェよ。───てめェは先に戻って、ルフィたちに知らせろ。迷うなよ」
言い置いてから、その姿を海軍の前にさらけ出した。
「間抜けな海兵さん、どこ見てんだ?俺はこっちだぜ」
「捕まえろ!」海兵たちがワッと、サンジに詰め寄った。
「生憎、捕まる気はねえ」
サンジが少しずつ後退しながら、海兵をひきつけていく。小さく頷いたのは、ゾロに早くここから離れろという合図なのだろうか。
(あンの馬鹿…!)
ゾロはサンジを睨みつけるが、こうなってしまっては仕方がない。ジリジリした思いで移動しようとするが中々足は進んでくれなかった。
「捕まる気はないなんて言っても、お前は逃げられないぞ」
海軍の男が勝ち誇ったように言った。
サンジの背後は島の最端らしい切立った崖である。下は海。当然ながら逃げ場はないと踏んだのだ。
「それはどうかね」
口角を上げたサンジの笑顔がかき消すようにフッと見えなくなる。
飛び降りたのだと認識するまで、ゾロはしばらくかかった。

 

船を下りるつもりは最初からなかったんですよ?
俺は自分がどんなに卑怯で狡いかを知ってる。

いきなり普段と違う態度に出たら、奴が俺を気にするのは分かってた。
あいつはね。俺と違って、真っ直ぐな奴だから。
納得いかないことをそのままにしておける性格じゃねえ。
そんなんでも、良かったんだ。

俺のことをどんな形ででも考えてくれたら。少しだけでも、気にしてくれたら。

自分が情けなくて嫌にもなった。
以前と何も変わらずにいられたなら、それが一番良いって事も分かりすぎるくらいに分かってたけど。
でも、俺は流石にそこまでは自分を誤魔化せなかった…。

 

すぐにでも海軍の前に飛び出してしまいそうな自分を抑えて、ゾロは木の間を縫って歩く。囮になったサンジの行動を無駄にはしたくなかった。
街へと出て、港に向かったゾロはちょうどナミと出会った。どこ行ってたのと非難するナミに、ゾロは海軍とサンジの事を知らせる。
ナミは表情を引き締めた。
「とりあえず、船に戻りましょう」
船のところまでは、まだ海軍の手は伸びてはいなかった。少し船を移動させ、浅瀬の目立たない場所へと着ける。
一日経ち、二日経っても。
サンジは戻ってこなかった。
探しに行こうと騒ぐ船長を宥めるナミを見ながら。
ゾロはただひたすらに心中でコックを罵倒していた。
アホコックが。
どれだけてめェを犠牲にすれば気が済む。自分の傍迷惑な行動を分かっているのだろうか。

それと同時に、胸に膨れ上がる思いに圧し潰されそうだった。

どうか、どうか、どうか。
頼むから。

生きていろと。

あの夜の事が脳裏を過ぎる。
冗談などと言いながらもサンジの瞳が真剣なのはゾロも本当は気づいていたのだ。
好きだ、とかそんな感情をいきなりぶつけられて確かに戸惑った。だから否定した。
だが、いなくなってみてどうだろう。
あの自分勝手な憎らしい男がいなくなっただけで、何故こんなに心がざわつくのか。
気になって気になって仕方がないのは。
自分にとって、思っていたよりもずっとあのコックの存在が大きいのだと認めるしかない…。

───三日目。
街へ出かけていたナミが急ぎ足で戻ってきた。
サンジが見つかったと。
浜に打ち上げられたのを、近くに住む医者である女性に助けられたのだという。
意識が暫くなかったので、連絡が取れなかったのだ。
「ゾロ。サンジくん、骨も折ってるらしくて一人で戻るのは無理だろうから迎えに行ってちょうだい。海軍には気をつけて」
「俺が?」
「まあ、あんた達は仲悪いから嫌かもしれないけど。私だと、途中で倒れたりしたら連れてこれないし、ルフィじゃ騒ぎ起こすかも…」
ナミが言うのは最後まで聞かず、ゾロは船を飛び出していた。


ああ…あいつが迎えに来たみたいだ。
そう、多分ナミさんか船長命令だな。
あいつが自分から進んで来る訳ねェし。


ありがとう、レディ。俺を助けてくれた上に、こんなつまらない話を聞いてくれて。最初は貴女の話を聞いてたのに、いつの間にか俺ばっか話してたな。
フェミニストの風上にも置けねェや。

じゃあ、俺はもう行きます。
大丈夫、ゆっくりなら歩ける。俺は結構しぶとくてね。

どうぞ貴女にも素敵な男性が現れますように。
それが俺でないのが残念だけど。
…心にもないって?いや、そんな事。
ああ、こんな話した後で今更取り繕ってもダメか。
でも感謝の気持ちは本当です。
貴女のおかげで、誕生日に死なずに済んだ。

いつか──俺がどこかでレストランを開いたら、ご馳走しますから。
その時はもう、あんなクソ剣士の事はとっくに忘れてて、心底笑顔で迎えられると思う。

きっと。



 

その家からサンジが出てきたのを見て、ゾロは駆け寄った。
生きてた…。無事だったのだ。
分かってはいたが、その姿を目の前にすると胸が詰まる。
「てめェ…心配、させやがって」
「心配だって?てめェがかよ。笑わせんな」
サンジがちょっと冷やかすように。ゾロはその体に腕を回し抱きすくめる。「…離せって!痛ェだろうが。俺は骨やられてんだぞ。感動の再会なんていいからよ、さっさと船に戻ろうぜ」
サンジが腕を突っぱねるが、ゾロはそれでもコックの体を離さなかった。

もう、さらりとかわさせたりはしない。
格好つけて上手く逃げようったって、そうはいかない。

「俺は───てめェがいなくなるのは、絶対に許さねェぞ!」
目を真っ赤にして怒鳴るゾロをサンジは暫くじっと見ていた。
間を置いて出たコックの声は僅かに掠れる。
「ったく、てめェは…あんまり考えなしに喋るなよ。期待しちまうだろ」
「しろよ。俺は全然構わねェ。むしろ大歓迎だ」
「…何言ってんだ」
「俺はてめェ一人くらい抱えても夢は叶えられる。だから、てめェも余計な事考えんじゃねえ」
「……」
「それとも、こう言や分かるかよ、アホコック」
ゾロは走っている間に考えていたことを口に出した。ずっとずっと考えていたことを。
「てめェがいないと俺は駄目だって。分かったら、これからも俺の側に居やがれ」
「バ…」
サンジの目から、堪え切れない涙が溢れた。
それが心底悔しそうで、それでも止まらずに。
流れる。
「…勝手、ぬかすんじゃねェよ。俺にだって…叶えなきゃならねえ夢があんだよ」
「んな事承知のうえだ。しょうがねえから、それにも付き合ってやるよ」
「こっちの台詞だ、クソ野郎…」
ぐいぐいと袖で顔をこすって涙を拭く。「畜生…みっともねェ…」
こいつは、そんなに自分の弱味を見せるのが嫌なのだろうか。
ゾロは何とも歯がゆいような気持ちになる。
だがそれでこそ、この男らしいとも感じてしまうと。
虚勢を張ってるのがいじましくさえなってしまうと…。
もう、駄目かもしれない。
「戻るぞ。皆待ってんだ。遅れたけど誕生日パーティしたいってよ」
ゾロが促すと、サンジは拘るように聞く。
「てめェはどうなんだ」
「俺か。まあ…てめェが無事なのはめでてえとは思ってる」
「へっ。どうしてもってんなら、祝わせてやっていいけどよ」
「お前は…」
サンジの口調はあくまでも尊大だ。ゾロは先が思いやられるとしみじみ考えながらも、どこまでも素直でないコックに祝福の接吻けをした。

 

 

─── Happy Birthday Sanji ───

 

-fin-

02.3.6

 

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