なァ…。

んな顔、すんなよ。
俺ァ、別に恨んでなんかねェんだぜ。しかし、血ってのは生温いもんだな。
匂いもきついし。
あァ?よく分からねェって?
俺は料理人だから、感覚も敏感なんだよ。
てめェも剣士なら、ちっとはそういうのも磨いた方が良いんじゃねェか?
まあけど、そんくらいの方が少々斬られたって平気なのかもしれねえな。

おい、そんな力任せに押えても簡単にゃ止まらねェだろ。
かなり深いぜ。いや、斬られた当人が言うんだから間違いねェって。
もうドクドク耳鳴りがうるさくてよ。正直、てめェの言ってることもよく聞き取れねえんだ。
ああ、だから、恨んでる訳じゃねェって。
ま…それくらいは分かってんだろうけどな、てめェも。
てめェは鈍くてどうしようもねェけど、目は反らさねェもんな。
そう、運がちょっと悪かっただけだ。
てめェも日がな一日戦って、ボロボロに疲れてたろ。
しかも、辺りは真っ暗闇で。俺か敵かなんて、そりゃ判断がつきゃしねェよ。
逆の立場なら、俺がてめェの頭砕いてたかもしんねえし。
今更だって、そんなの。

なー今日、俺の誕生日って知ってたか?
ああ…確かに事前にも騒いでたし、一応覚えてたか。
品物なんか要らねェよ。だいたい、てめェ何も持ってねえだろうが。
普通ならおめでとーって、その一言で充分だろ。
そんな事言える気分じゃねェって、そりゃそうだろうけどよ。
んじゃあさ、俺が生まれてきたことに感謝するとか。そういう台詞。
縁起が悪い?そうかねえ。

痛ェって、だから。
お前、そんなにギュウギュウ抱き締めんな。
俺の死期早めようってのかよ。
何だよ、そう怒んなって…冗談だよ冗談。
おいおい。お前、体も顔も血塗れになってんぞ?
あ、そっか。俺の血か。

イヤ、そりゃ痛えって。聞くなよアホ。
何しろ世界一の大剣豪を目指す男に斬られたんだからなァ。
さすがに、舐めて治る傷じゃなさそうだ。
まあ痛ェっつうか、ダルいの方が近いかな。
もうあんま感覚ねェや。

そんな事よりよ、月が綺麗だぜ。
さっきまで闇夜だったのに、いつの間にか雲から出てきてやがる。
てめェも、ちょっと空見てみろよ。
は。俺を見ておきたいなんて、そんなマジに言われても…。
笑うなって?
笑わせろ、クソ野郎。

にしても、なあ…月が綺麗だぜ?

……ゾロ。お前の唇も鉄の味がする。 

* * *


そうギャーギャー喚くなっての。
バッカ、あれぐらいで俺が死ぬわけねェだろ?
ああ、クソうるせェな。
そんな真っ赤になって怒鳴らなくても聞こえるって。死にそうな顔で死にそうな事を言うから惑わされた?
そりゃ、お前。これカスリ傷とはいくら何でも言えねェだろ。
チョッパーにも、しばらく絶対安静ってきつく言われたし。
まあまあ、そうムキになんなって。
てめェが俺を大切に思ってんのは、よーく分かったからよ。
…何だよ、刀構えちゃってよ。俺はてめェに斬られて、重症なんだぜ。
止め刺してやるだあ?
上等じゃねェか。かかってきやがれ、オラ。


── はい、ナミさん。ごめんなさい、大人しく寝ます。


- fin-
2002.3.2



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