Spa 19's

 

 


「温泉?」
「そう、温泉が沸いてるんだって」
とある島に上陸し、皆で揃って宿に着いた時にナミが言う。船長が首を傾げて、
「オンセンって何だ?美味いのか」
「飲める温泉もあるけどね。疲労回復、それから筋肉痛・関節痛・火傷・外傷などなどに効能を発揮して美容にも良く」
宿泊の手続きを取りながらナミがくだくだ並べ立てると、ルフィは拗ねて頬を膨らませた。
「難しいぞ、ナミ。さっぱり分かんねェ」
「ま、つまりお風呂よ」
「何だ、風呂か」
納得したように頷くルフィ。「俺はそれより美味ェもん食いたい」
「ルフィ、絶対入りなさいよ。普段から、なかなかお風呂に入らないし…ゾロ、あんたもよ」
ナミが階段の辺りで大欠伸をしている、船長同様風呂嫌い(と言うか面倒くさがり)の剣士に釘をさした。
サンジが大袈裟に会釈してナミに傅く。
「ナミさん、このラブコックにお任せを!俺が責任持って風呂に放り込んでやります」
「よろしくね」
「あいあいさー」
サンジはビシッと最敬礼である。
ナミは別として、男達は少し大きめの部屋で雑魚寝ということになった。
「これ何だ?」
室内を物珍しげに漁っていたルフィが置いてあった着物を広げる。
「浴衣だろ。俺の故郷でもあったぞ」
言いつつ、ゾロが畳にゴロリと横になろうとしたが。
「へー。面白い形してんなあ」
「…そこに手ェ通すんじゃねえよ。こっちだ。それに着るんなら服脱げ」
ゾロはルフィの浴衣の袖を引っ張った。それをサンジたちが見て折角だし着てみようということになり、着方が分からずゾロの手を煩わせる。チョッパーは子供用の浴衣でも裾を引き摺っていたが…。
「足がスースーすんぞ、コレ」
ルフィが最後に着たゾロを見て感嘆したように手を打った。
「お、何かゾロ格好良いな!」
確かにゾロは似合っていた。渋い色合いの浴衣が実にしっくり馴染んでいる。
「そうか?」
「ケッ。まあ、そういうのは胴長で足短い奴の方が似合うんだよな」
「何だと」
ゾロがコックを睨むが、サンジは何所吹く風でさっさと廊下に出て行く。ガニ股で、裾捌きも何もあったものではない。
「さあ、てめェら風呂に行くぞ!ナミさんに任せられたからな。キッチリ入ってもらうぜ」
大声で仕切るサンジに、帯をもっとギュウギュウにきつく縛ってやれば良かったとゾロは思った。

 

 

大浴場に足を踏み入れた途端、ルフィが叫ぶ。
「おおっ、すげー!アラバスタの風呂みたいだな!」
客は少なかったが、騒がしい一行の出現に目を見開いていた。
体を洗っているのか泡で遊んでいるだけなのか分からないが、ルフィとウソップ、チョッパーはともあれ楽しそうである。
やや茶色く濁った色のお湯が張られた広い浴槽にゾロが体を浸けていると、サンジが入ってきた。
「ああ、足が伸ばせる風呂っていいよなァ」
独り言なのかゾロは特に見てもいない。「ナミさんも今頃入ってんのかな。混浴とかだったら良かったのに〜」
女湯があろう方向に首をちょっと伸ばす。
「アホか」
ゾロがぼそり呟くと、サンジが聞きとがめた。
「てめェ、前も思ったけどよ…。大丈夫なのか」
「あァ?」
「だって、前も女湯とか興味ねェって感じだったし。健全な若い男子としてそりゃ問題あんじゃねェの?」
「馬鹿らしい。だいたい覗きがしたいなんて、ガキくせェんだよ」
「ガキで結構。この歳でインポとか枯れちまったりとかするよりゃよっぽど良いね」
「誰がインポだ!」
「んじゃ、ホモか」
「たたっ斬るぞ、てめェ」
バシャン、と湯を跳ねさせてゾロがサンジに詰め寄る。サンジがその顔に、手で器用に水鉄砲を作るとお湯を引っかけてやる。
「オトナだったら、こんな事で怒ったりしねェよなあ?」
サンジが揶揄すると、ゾロは鬼のような形相になったが歯軋りしながら無言で湯船を出た。
この男の相手をしていると、寛ぐ筈の風呂がさっぱりその用を成さない。
「ゾロ、どこ行くんだ?」
ウソップが声をかける。ゾロは唸るが如く、
「サウナだ」
と言い、奥にある木の扉を開けた。個室になっていて、入ると蒸気が押し寄せてくる。
何だ何だと結局全員がわらわらやってきて、ゾロの安らぎはどこか遠い世界になったようだった…。
「うおー、何だこりゃ、あちィッ」
「息苦しいな」
「でも面白いぞ」
はしゃいでいたクルーたちだったが、数分経つうちルフィがぐったり体を伸ばす。いや、実際伸びている。
「ああ〜俺、何か溶けそうだー」
「ゴムにゃ温度が高すぎんじゃねェか?」
ウソップがルフィに肩を貸して、出て行く。チョッパーももう暑くて駄目だと浴場へ戻った。
「マジでこりゃ砂漠みてえだな。湿気があるかないかの違いだけだ」
フウ、とサンジが息をついて立ち上がる。「わざわざこんな所に入るなんて、物好きだぜ」
「我慢のきかねェ奴だ」
ゾロの言葉にサンジが額に青筋を浮かせた。
「ンだと、コラ!」
「これぐらいで音をあげるなんざ、修行が足りねェ」
「なーにが修行だ。単にマゾなだけじゃねェかよ」
「何とでも言え。根性なしはとっとと水風呂でも入ってこい」
ゾロが口角を上げる。
「上等じゃねェか…!」
サンジが不敵に嗤うと、ドカッと座りなおした。「てめェなんかに負けるかよ」
「引っくり返っても知らねェぞ?」
「てめェこそな」
熱気の中で睨み合う。
一分、二分と時間が過ぎ、それぞれの顔や体から汗が流れ落ちる。
「駄目なら無理はすんなよ」
「それ、そっくりそのまま返してやる」
五分、六分…いい加減頭がぐらぐらしてきたが、意地もあり相手がギブアップするのを待っていた。見た目はゾロがやや優勢か。サンジは皮膚の色素が薄いせいか真っ赤になっているのに、ゾロはあまり変わらない。
「おっと…」
汗を拭った時タオルがずれ落ちかけたので、ゾロはそれを直す。
「へっ。大したブツでもねェくせに隠すな」
サンジが冷やかした。頭がボーッとして何か喋ってないと意識が飛んでしまいそうだったのだ。
「てめェよりゃマシだと思うがな」
「怪しいもんだぜ」
「じゃあ自分の目で確めりゃいい」
ゾロが、見たけりゃ見ろとタオルを払い除けた。
「……」
「てめェと比べて、言葉も出ねェか?」
にやりとするゾロにサンジはカチンときた様子で、
「うるせェ、問題は実用性だ。俺は勃ったらスゲェぞ」
「口じゃ何とでも言えるぜ」
「おーお。フニャチンで役立たずの癖に偉そうに」
「…なら、見せてやろうじゃねェかよ」
「てめェこそ驚くんじゃねェぞ」
暑さで朦朧としているせいもあり引くに引けなくなったのもあり。期せずしてほぼ同時にゾロとサンジは各々のブツを擦り始めた。
「……ど、うだ…!」
息が荒いのは熱い空気のせいばかりでもない。
「俺はまだまだデカくなるぜ」
「俺だって、もっとカチカチに」
お互い何を言っているのか。
密室の中で、はあはあと乱れる呼吸が絡み合った。
「…そろそろ…限界だろ、てめェ」
「お前がだろ…ハッ…」
「…クッ…馬鹿言え…あっ…」
サンジが真っ赤な顔を更に赤くした、その直後。仰け反ったサンジがスノコの上に派手な音をたて倒れてしまう。
「おい───」
ゾロが流石に手を止め、サンジの肩を掴んだ。
「はあっ…畜生…!」
サンジは苦しそうに呻く。「ま、参った…」
「おいこら、クソコック!」
呼んでも首を垂れて気を失ってしまったサンジから返答は返って来ない。男の状態的には何とも辛かったが、ゾロは仕方なくサンジの下肢にタオルを巻いて体を抱えるとサウナから出た。
ゾロもかなりフラフラである。ルフィ達は既に出たらしく、浴場には誰もいなかった。
浴衣を羽織り部屋に戻ってサンジを布団に横たわらせ、氷で頭を冷やしてやると漸くコックの目が開く。
「クソッ…負けたぜ」
サンジは悔しそうに舌打ちして、ゆっくり身を起こした。結局の所先に倒れたのはサンジだ。負けは負け、なのかもしれない。
「いや、今回ばかりは俺もヤバかったけどな」
珍しくサンジが素直な為か、ゾロも団扇で顔を仰ぎながら正直に言う。
「まあ、勝負はこれっきりって訳でもねェし。さーて、夕飯までにゃ間があるから…」
サンジはいつもの黒スーツを手早く着し、鏡を見ながら髪を整える。ゾロが訝しげに尋ねる。
「どこ行くんだ」
「バッカ、あんな中途半端で不発だったんだぞ?収まりゃしねェよ。ナンパに決まってんだろ!」
サンジはわざわざ何を聞くのかという顔である。ネクタイをしっかり締めると、鼻歌混じりに踊るような足取りで部屋を飛び出して行ってしまった。
「…あいつは」
ゾロは半ば呆れ半ば感心の溜息をつく。
一応はゾロに軍配が上がったのだから満足すべき結果なのだろうが。
試合に勝って勝負に負けた、ような気がしなくもなくて妙に虚しかった───。

 

 

 

-fin-

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