ZAP  #file 22 -side S-

※エーサン描写あるので苦手な方はご注意下さい


 

「オトナ、ね」
座ったままの姿勢で後退りするが、エースの腕はがっちりと俺の体を支えている。
「そう。何も聞いてほしくねえならオトナだから聞かねえけど。意味もなく俺んちに来たりはしねえだろ?狼の前にわざわざ身を投げ出して、危険が分からねェような愚かな子羊ちゃんでもねェだろうし」
「…どっちかってえと、狼から逃げてきたか弱い子羊なんだろうな。逃げてきて猟師の罠に導かれたってとこさ」
そもそも、このホモが俺に手を出そうとしたのが厄介ごとの始まりみたいな気がして、逆恨みだとは思うがむかむかする。挑戦的に見返すと、エースは笑い出した。
「おいおい、人聞きが悪いなァ。わざわざ自分からここに来たってのによ。言ってみりゃ、カモネギか飛んで火に入る何とやらだぜ」
「放っとけ」
俺自身、どうしてここに来たのかなんてよく分からない。だが。「アンタぐらいしかこんな話できる奴がいねェからだ。俺を抱きたい奴の心情ってのを聞きたくてな」
「ふーん…?」
エースは眉を上げて、全てを察したとでも言うように頷いた。「ロロノアに襲われたのか。そんで怖くなったかどうかして逃げ出してきたってとこだな」
…当たってるから尚腹が立つ。
「怖いっつうか。あいつの自分勝手なやり方が心底頭に来たんだよ。俺なら例えばレディ相手に、あんな乱暴な──別に俺ァ丁寧に扱ってほしいとか、んな事思ってんじゃねえぞ!ただやりたくなったらこっちの意思も無視してすぐ突っ込もうとかそういうのは、人を蔑ろにすんのも程があるだろうがよ」
言うにつけ、あの屈辱感が蘇ってきて不覚にもまた悔し涙が出そうだ。
「ハイハイ、分かったから落ち着け。男と寝た経験もねェんなら、多少恐怖はあって当然だしな」
でもまあ、と座り直して「ロロノアの奴だって男を抱こうなんて初めてだろうし。それこそ勢いにでも任せねェと、色々と難しかったんじゃねえか?」
「勢いって、そんなもんなのかよ。高校生のガキとかじゃあるまいし」
「年は関係ねェと思うけどな。そう毛嫌いすんなよ。男同士だって、やろうと思えばセックスは問題なくできる。好きな相手なら特にそうだ」
「ハ。あんたはさぞや慣れてんだろうな」
「試してみるか?」
「やってみろよ」
自棄だ。自棄にもなるさ、クソ。
どいつもこいつも。俺に欲情するなんて酔狂な奴らの相手なんかまともにしてられっかってんだ。
「はは、ヤケクソだなァ。けど言ったからにゃ本気でやらせてもらうぜ」
素早く額にチュッとキスされた。「いいのか?サンジ」
いいのかって、そりゃ良くはねェさ。ねえけど、あれこれ悩むのが面倒になってきちまった。
俺を抱きたいってもゾロとは何もかもが違うんだよな、エースって男は。年齢だけでもねェんだろうが妙に余裕があって、どこか安心して任せていいような気持ちにさせられる。
「…やりたきゃやれ。減るもんでもあるまいし」
「んじゃ、戴きます」
エースが律儀にひょこっと頭を下げた。それから、俺の体を抱き上げる。俺の体は見た目より重いだろうと思うのに…こいつ結構馬鹿力だな。
「おい!恥ずかしい真似すんなよ」
「いや、床だとお前が辛いしさ」
エースにすとんとベッドに落とされて、そのままゆっくり押し倒された。
柔らかいキスが降りてくる。さも味わうように、丁寧に歯列をなぞり優しく俺の舌を絡め取る。優しい癖に、エースの舌は熱くて。掌が何度も焦れったいくらいに脇から腰の辺りを行き来した。強く弱く、愛撫ってのはこうですってなお手本にできそうな、波を確実に高めるその動き。電流みたいに背筋を通り抜けるのは快感とも悪寒ともつかない。
「ン…っ」
耳元から首筋を舐められ背中に指を這わされて、出したくなくても声と息が漏れた。緩やかに太腿に手が伸びてきて無意識に全身がちょっと強張る。
「心配すんな。痛い思いは絶対させねェから…大切にする」
こんな台詞は、ゾロには口が避けても言えねェだろう。
ゾロ。
ゾロとは全く違う手。唇。舌。──俺を見る、その瞳。
当たり前だ。今から俺を抱こうとしているのはエースで、ゾロじゃねえ。
ゾロじゃねえんだ…。
そう思うと何かたまらなくなって、俺は大きく溜息をつき瞼を閉じた。
だが間を置かずエースの動きが止まってしまい、不審に感じたのですぐに目を開く。
「…どうした?」
俺が聞いてもエースはまじまじと俺を眺めるだけで。やがてフッと笑みを浮かべて体を起こしてベッドから降りた。つられて俺も起き上がる。
「止めた」
「は?」
「やっぱりロロノアがいいって顔に書いてある。体だけでも貰っとくかと思ったんだがな…俺も人がいいね」
「……」
「サンジ。ちゃんとロロノアの奴と向き合えよ。それでどうしても駄目なら抱いてやるから、いつでも来い。歓迎するぜ」
エースは両手を腰に当てて、俺の顔を覗きこんだ。
「…野郎となんか出来るわけねえと思ったけど」
内心、俺は安堵していた。売り言葉に買い言葉とかで、やっちまってたら絶対後悔していただろうから。こんな流され方は、エースに対しても失礼だと思う。ブレーキをかけてくれて助かったんだ。 「もしアンタとやってたら…気持ち良かったかもしんねえ」
「そりゃ嬉しいお言葉だ。証明できなかったのが、ちと惜しいがな」
いい子いい子、って感じで頭を撫でられる。ガキ扱いすんなっての。
エースの腕を軽く払ったところで、横から電子音が鳴った。
充電器に置いてあったエースの携帯電話だ。エースが取って、「おうルフィか」と砕けた口調になる。だが電話を切ると、微妙に真面目な表情で言った。
「悪ィ、サンジ。事件で出かける。寝るんなら部屋は好きに使え」
「事件って。今のルフィじゃなかったのか?」
「どうも厄介ごとに巻き込まれたらしくてな。よく騒ぎを起こす奴ではあるんだが…。現場に行ってみねえと」
弟のことは心配なんだろう、急いで靴を履くエースに俺もついていく事にした。のんびり寝られる気分でもないし、さっき会ったばっかりとは言え俺の料理をあんな美味そうに食っていたルフィが何か事件に関わってしまったんなら協力できることがあればしたかった。



現場はエースのマンションからそう離れてはいない。パトカーが何台か止まっていて、赤いカンテラが暗闇に眩しく回っていた。
ルフィは警官に囲まれていたが、エースを見て制止を振り解き走ってきた。
「エース!」
「ルフィ。お前、怪我はねえんだな?」
エースが確認したのは、ルフィの服や手に血がついているせいだ。周りの警官に身分証を見せてから弟を見る。「もう一度ちゃんと説明してみろ」
「説明ってもさ、よく分かんねェんだよ。駅に行こうとしたら喧嘩してる奴らがいて…俺は放っといて歩いてたんだけど、急にその中の一人が後ろからナイフ持って飛び掛ってきたんだ」
「で、避けたのか」
「体はぶつかったけど、刃は当たらなかった。そしたらナイフ投げ出してそいつら逃げていっちまって。俺が落ちたナイフ拾ったら、ちょうどパトカーが来てさ」
「タイミング良過ぎるな…そいつらの顔とか覚えてるか」
ルフィは黒い目をパチクリさせてしばらく考え込んでいたものの、首を振った。
「サングラスとかかけてたしな…でもそいつらの一人が『逃げろサーキース』とか言ってた」
「サーキース?」
その名前を聞き、エースが眉間に皺を寄せて顎に指を当てた。「どっかで聞いたような名前だな。それにそのナイフ…」
エースが警官の方に近づき、ビニール袋に入った凶器のナイフを調べ出した。ルフィは俺を見て嬉しそうに。
「サンジも来たんだな。俺が捕まったら牢屋に差し入れに来てくれるか?」
「アホかお前」
何も考えてないふうなのに、変に思考が飛んでやがる。だいたい会って間もないのに、こいつとは。すっかり俺イコール飯になってんじゃねえだろうか。
「思い出した」
エースが携帯片手に戻ってきた。「サーキースってのは、ベラミーの仲間だ。あのナイフもそいつの持ち物だろう。取調べした時に珍しいデザインだったから、覚えてる」
ベラミー…?前にクリケット宅での事件の時に盗難で捕まった男だ。ロビンちゃんに捨て駒にされた哀れな──そう言やロビンちゃんはどうしてるかな──小悪党。
「ルフィが俺の弟だと知ってて、罪を被せようとしたんなら話も分かる。あの時俺が指揮してたから、奴らに恨まれたんだろうな。多分居所はすぐ見つかるだろうし、警官を向かわせよう」
エースは手配を始め、無線で連絡を取っている。
「……エースに任せときゃ大丈夫だろ」
俺はきょとんとしているルフィの肩を叩いて力づけてやった。牢屋どうこう言う割にあまり不安そうには見えないが、とりあえずな。年下だし。
「うん。エースは頼りになるぞ」
ルフィは大きく頷き、ふと鼻をヒクヒクさせて俺の懐に鼻先を突っ込む。
ななな。
「何してやがんだ、てめェはっ」
「サンジ、エースの髪の匂いがする」
ゾロとはタイプは違うが、動物めいた奴がこんなところにもいた。「エースとくっついてたのか?」
「くっつ──いや、その…ちょっと、凭れてただけだ」
「ふーん。残念だな」
「何だよ、残念ってのは」
「エースとサンジがもっと仲良しになったら俺もサンジのメシが食える」
あのな…。ま、ルフィの言い方は邪気がないから、きっと深い意味はねえんだろうな…。と、思いたい。
「お、来たかロロノア」
エースがパトカーから出てきて言ったので、どきりとする。
事件ならエースの後輩であるゾロが来るのは当然なんだが、まったく心臓に悪い夜だ。走ってきたゾロは俺を見つけて足を止めた。
「お前…」
エースが、俺とゾロの間を遮るように体を割り入れた。
「おっと、俺の用が先だぞ。ベラミーはどうしてる」
「…仮釈放になってからは暫く大人しくしてたみたいですけど。一応居場所はさっき電話で言った通りで」
「ご苦労さん。警官達が先に行ってるから、逃がさねえけどな。とにかく向かうか」
「はあ、でもこいつは…何で一緒に…?」
俺がエースと共にいるのが不愉快だというのがありありなツラだった。
「プライベートは後回しにしてほしいんだが。まあ、俺もお前には言っとくことがあるしな」エースはニッと口角を上げると、拳でゾロの頬を容赦なく殴りつけた。「──サンジを泣かすなよ」
不意打ちにふらついたゾロは俯いて頬を押さえていたが、口内を切ったのかペッと血を吐く。
それからエースを尖った目で睨んだ。
「…泣かせるつもりはありませんよ」
「よし。その言葉忘れんな」
火花散らす二人に、俺は喜ぶべきなのか悲しむべきなのか怒るべきなのか。
立場の複雑さに眩暈がした。






-fin-

 

20031118
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